管理人:やっさんは機械系学部を卒業後、30数年間にわたり一貫して機械設計畑を歩んでまいりました。
その後、ふとしたきっかけで50歳を目前に電気の資格取得を決意。 『電験三種』、『エネルギー管理士[電気]』の資格試験に独学で合格することができました。
【機械】と【電気】
それぞれ全く異なる分野と捉えがちですが、『本業の【機械】設計』、『【電気】に関する資格取得』、それぞれ両方の分野に足を踏み入れた結果、お互いの関連性が非常に深いという事を改めて感じました。
また、機械設計エンジニアが“電験”を取得することにより、多くのメリットが得られるという点に気づくことが出来ました。
今回、
について、自身の経験を元に解説したいと思います。
- 現在、機械系の技術者として実務に就いているが、電気系の事は全くわからない為仕事を進める上で困る事が多い といった方
- 将来の自身の進路について、機械系に進みたいと考えているが電気系についても興味がある学生の方
という人に読んでもらえると幸いです。
機械設計エンジニアこそ電験に挑戦すべき理由
機械設計エンジニアは日頃から様々な機器類に触れる機会が多い
電験(電気主任技術者試験)の受験科目は、【理論】、【電力】、【機械】、【法規】の4科目からなります。
このうち【機械】科目に関しては、機械設計エンジニアにとって(物によっては、機械設計エンジニアでなくても)日頃馴染みある機器類が多く、それほど抵抗感なく入り込めるのではないでしょうか?
たとえば、
- 電動機…回転機(モータ全般)、ポンプ、エアコンプレッサ、送風機
- 照明…白熱灯、蛍光灯、LEDライト
- ヒーター…誘導加熱(IH調理器)、誘電加熱(電子レンジ)、赤外線ヒーター、ヒートポンプ(エアコン)
などなど。
機械設計エンジニアとして日頃実務についている人であれば、電験の【機械】科目で出題される設問に対して、『問題文が何のことを言ってるのかさっぱり???』といった事はまず無いと言って良いでしょう。
一方、電験の資格取得に向けては、機器の構造や仕組みについてより深堀りしたレベルでの理解が求められます。
また、電験で出題される計算問題の攻略の為には、機器の動作原理について正確な理解が求められ、用いられている物理法則や現象、物理量を数式で置き換えるという事が重要になります。
例えば、
機器名 | 動作原理 | 物理法則・現象 | 物理量 |
---|---|---|---|
直流電動機 | 磁界(磁束密度:\(B \mathrm{[T]} \))と直角方向に置いた電機子導体(長さ:\(l \mathrm{[m]}\))に対し、電機子電流:\(I_a \mathrm{ [A]} \)を流すと電機子導体に力:\(F \mathrm{[N]} \)が働くことにより回転力を得る | フレミングの左手の法則 | \(F=BI_a l\) |
誘電加熱(電子レンジ) | 絶縁体(誘電体)に高周波電界を加える事により内部に分子の双極子が形成され、この双極子が交流電界中で激しく方向を変えることにより生じる摩擦熱を利用 | 誘電体損 | \(P= \omega C E^2 \tan \delta \) 発熱量:\(P \) 静電容量:\(C \) 角振動数:\( \omega \) 誘電正接:\( \tan \delta \) |
日々の機械設計業務において普段から触れている機器類の構造や仕組み、動作原理を理解する事は、電験攻略に向けて大いに役立つと考えます。
機械設計エンジニアは自身の設計した製品の試験・評価が“電験”に密接に関連している
電験の【理論】科目に目を向けてみましょう。
機械設計エンジニアは、自身の設計した製品・装置や機器に対する評価・試験を行う際、様々な計測器、測定器を使用する機会が多くあります。
一般的な評価・試験項目について、以下のようなものが挙げられます。(かなりざっくりですが…汗)
評価項目 | 使用する測定器(例) | 測定原理 | 測定する物理量 | 対応する【理論】科目の単元 |
温度 | 熱電対 | ゼーベック効果 | 熱起電力 | 熱電効果 |
距離・変位 | (静電容量式)変位センサ | センサと測定物によって形成されるコンデンサの静電容量から変位を測定 | 静電容量 | ガウスの法則 |
(渦電流式)変位センサ | コイルに流れる高周波電流により生じる高周波磁界と測定対象物とに間の生じる渦電流の変化により変位を測定 | 渦電流 | ファラデーの電磁誘導の法則 | |
回転数 | ホールIC、ホール素子 | ホール効果 | 磁界 | ローレンツ力 |
流量 | 電磁式流量計 | 磁界の中を流れる流体により生ずる電圧の変化により流量を測定 | 起電力 | ファラデーの電磁誘導の法則 |
電流 | アナログテスター(可動コイル) | コイルに流れる電流による電磁力と、うず巻きばねの反力とのつり合いにより電流値を表示 | 電磁力 | フレミングの左手の法則 |
また、これら以外にも
- オシロスコープ
- スペクトムアナライザ(FFTアナライザ)
- ファンクションジェネレーター(パルスジェネレータ)
といった測定器、計測器を使用されている方も多いかもしれません。
機械設計エンジニアとは言いつつも、単にCADで図面を描いているだけではなく、評価・試験等の業務において、日頃より電気理論に触れている機会は意識している以上に多いと言えます。
【理論】科目を学ぶ中で、『あの時、自分が設計した製品・装置の評価・試験で測定していた内容は、実はこういう事だったのか!』と改めて気づかされる事も多いのではないでしょうか?
【機械】+【電気】両方の分野を極める事で、知識やスキルに幅と厚みをより増すことが出来る。
もはや、“言わずもがな”といった感もありますが、昨今、世の中に出ているあらゆる機械製品、電気製品はさまざま技術が組み合わさっています。
製品設計ひとつとっても、【機械屋さん】【電気屋さん】だけで完成できる製品はありません。
【機械屋さん】【電気屋さん】だけでなく、【ソフト屋さん】や【デザインさん】、【生産技術さん】、【品質保証さん】などなど…さまざまな人がかかわる事によってはじめて一つの製品ができあがるといってよいでしょう。
ひとつの製品を設計するにおいて、【機械設計】【電気設計】それぞれの担当で完全に分けることは困難であり、自身の専門とは異なる分野に対しても多くの知識やスキルが求められます。
機械設計エンジニアが電験を取得して良かった点
自身の経験において、機械設計エンジニアとして電験を取得して良かったと言える点についてまとめます。
設計段階におけるさまざまな課題や改善点が見えやすい
製品・装置の設計開発においては、途中意図しないさまざまな不具合が生ずることも多い事でしょう。(理想を言えば、問題点が全く出ることなく量産することが出来れば最高なのですが、残念ながらそういう事はまずありません…)
設計エンジニアは、誰しもが以下の考えにおいて全く同じ想いを持っているはずです。
- コストかけたくない
- 自身の設計担当の部分で不具合出したくない、
- 設計に労力をかけたくない
これらを解決するために、製品設計を進める中で常に意識して行わなければならないポイントがあります。
- 流用設計…可能であれば、過去に実績のあるものを流用する
- デザインレビュー…手戻りを避ける為、第三者による審査の実施
- バリューエンジニアリング(VE)の実践…\( \displaystyle 価値 \mathrm{(value)}=\frac{ 機能\mathrm{(function)} }{ コスト\mathrm{(cost)} } \) の最大化
電験を取得してみて一番感じた点は、これまで以上に技術的な知識の幅と厚みを増すことが出来たという事でした。
その結果、より広い視点で物事を見る事が出来るようになり、自身が製品設計を進めて行く中で不具合の未然防止や、さらなる製品価値向上に対する気付きが増えた事が実感出来ました。
機械設計者であっても電気設計者を理解しすることが出来、対等に物が言える
機械設計、電気設計それぞれの立場において、お互いに目指す形が異なる場合が多々あります。
例えば、
機械設計エンジニアの目指す形 | 電気設計エンジニアの目指す形 | |
必要なトルクを得る為、出力に余裕のあるモータを使いたい | (高出力モーター)⇔(省電力) | 消費電力をなるべく抑えたい |
装置内部の発熱を抑えたい | (機内温度低減)⇔(高速化) | 処理速度を向上させるため高速のCPUを使用したい |
装置内部の冷却を効率よく行う為、外装カバーに開口窓を開けたい | (装置冷却設計)⇔(ノイズ低減設計) | 電磁波のノイズが装置外部に放射するのを防止したい |
お互いの目指す形が相反する事も多い為、時には衝突するケースもあったりします。
が、本音を言うと、モノづくりを進めて行く上で双方が満足できるような製品設計が出来る事が望ましいと言えます。
若い頃(?)は【電気】に関する知識が不十分であったため、機械設計である自身の考えをなかなか理解してもらえなかったり、電気設計者の意見で押し切られたりして、結果として釈然としない事も多々ありました。
電験を取得した結果、電気設計者に対しても理解が深まったと同時に、より対等に近い立場で仕事を進める事が出来るようになったと言えます。
第三者への説明をスムーズに行うことができる
製品設計を行う上で、設計審査(デザインレビュー)や、関連する他部門(生産技術、品質保証)に対して自身の設計における考え方(設計思想)を説明しなければならないシーンが出てきます。
また、業種によっては自身が設計した機器がどのような製品や装置であるかについて、実際に使用するユーザーへ設計者自身による説明を求められる場面もあるでしょう。
電験を取得することにより、幅広い分野での知識の幅と厚みを増すことが出来、その結果多くの人への説明をスムーズに行う事が可能となります。
機械設計エンジニアが電験取得を目指す上でのポイント
ここまで、機械設計エンジニアが電験を取得するメリットについて解説しましたが、やはりメリットだけでそう簡単に合格できるわけではありません。
【機械】【理論】科目については、機械設計エンジニアにとっての身近である点を紹介しました。
一方、【電力】【法規】科目についてはどうでしょうか?
機械設計エンジニアであるからこそ、あらかじめ意識しなければならないポイントがあります。
【電力】科目攻略には実物を知ることが重要!
機械設計エンジニアにとって、【電力】科目はやや苦手意識を持つ人も多いのではないでしょうか?
【電力】科目でメインどころである『発電』『変電』については、たとえば、ガスタービンやGIS、調相設備など、日頃の業務において実際の物を目にする機会は殆どありません。(発電所や変電所勤務であれば別ですが…)
【電力】科目は覚える用語が多い上に、用語が指す物が何かわからないといったケースが多くあります。機械設計エンジニアから見れば、【電力】科目で出題される設備や機器類については、きわめて馴染みが薄いと言えるでしょう。
試験攻略の為には、出題される用語が指す物を実際に目で見て理解して覚えるといった事が非常に効果的です。
こちら👇の記事についても、ぜひ参考にして頂ければと思います。
【法規】科目攻略は計算問題をモノにする!
【法規】科目についても、機械設計エンジニアにとっては難所と言って良いでしょう。
私自身も、
- 『電気事業法』
- 『電気工事士法』
- 『電気設備技術基準およびその解釈について』
等、電気関連の法令について電験の試験の受験を決意するまで全く知らず、存在すら知らないといった状況でした。
機械設計エンジニアが電験取得を目指す上で、出題のうちの4割ほどが占める【計算問題】を確実に取るという事が最も合格への近道と言えるでしょう。
こちら👇の記事についても、ぜひ参考にして頂ければと思います。
まとめ
- 機械設計エンジニアこそ電験に挑戦すべき理由
- 日頃から様々な機器類に触れる機会が多い
- 自身の設計した製品の試験・評価が“電験”に密接に関連している
- 【機械】+【電気】両方の分野を極める事で、知識やスキルの幅と厚みをより増すことが出来る。
- 機械設計エンジニアが電験を取得して良かった点
- 設計段階における課題が見えやすい
- 電気設計者を理解しすることが出来、対等に物が言える
- 第三者への説明をスムーズに行える
- 機械設計エンジニアが電験取得を目指す上でのポイント
- 【電力】科目攻略は実物を知ることが重要!
- 【法規】科目攻略は計算問題をモノにする!
今回はここまでとさせて頂きます。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。