電気電子系の技術者の方の中には、電験の資格取得後に更なるステップアップとして、技術士[電気電子部門]に挑戦される方も多いのではないでしょうか?
技術士の資格は、技術士第一次試験に合格するなど“技術士補”となる資格を有し、所定の年数の実務経験を経た上で、さらに二次試験(筆記試験+口頭試験)をクリアしなければならず、非常に難易度が高い資格として知られています。
しかしながら技術士第一次試験に関して言えば、[電気電子部門]の専門科目は電験三種と比べても難易度に大きな差は無く、同時合格も十分可能な難易度と言えるでしょう。
技術士第一次試験の内容と、電験三種との比較について解説していきます。
技術士一次試験ってどんな試験?
技術士第一次試験の試験内容
技術士第一次試験は、年齢、学歴、業務経歴などによる受験制限は無く、誰でも受験が可能です。
技術士第一次試験は、全部で20ある技術部門ごとに実施し、
- 技術士となるのに必要な科学技術全般にわたる基礎的学識
- 及び技術士法第4章の規定の遵守に関する適性
- 並びに技術士補となるのに必要な技術部門についての専門的学識
を有するか否かを判定する試験となります。(引用元:技術士第一次試験実施大綱(PDFファイル))
試験は、
- 基礎科目
- 適性科目
- 専門科目
の3科目について行われます。
参照:令和5年度 技術士第一次試験の実施について|公益社団法人 日本技術士会
技術士第一次試験の合格率推移
過去10年(平成25年~令和3年)までの技術士第一次試験の受験申込者等の推移表は以下のようになっています。(引用元:技術士第一次試験 統計情報|公益社団法人 日本技術士会)
受験申込者数(人) | 受験者数(人) | 合格者数(人) | 対申込者合格率(%) | 対受験者合格率(%) | |
---|---|---|---|---|---|
平成26 | 21,514 | 16,091 | 9,851 | 45.8 | 61.2 |
27 | 21,780 | 17,170 | 8,693 | 39.9 | 50.6 |
28 | 22,371 | 17,561 | 8,600 | 38.4 | 49.0 |
29 | 22,425 | 17,739 | 8,658 | 38.6 | 48.8 |
30 | 21,228 | 16,676 | 6,302 | 29.7 | 37.8 |
令和元 | 22,073 | 13,266 | 6,819 | 30.9 | 51.4 |
2 | 19,008 | 14,594 | 6,380 | 33.6 | 43.7 |
3 | 22,753 | 16,977 | 5,313 | 23.4 | 31.3 |
4 | 23,476 | 17,225 | 7,251 | 30.9 | 42.1 |
対受験者数合格率は約30%~50%前後となっており、電験三種と比べて非常に高い合格率となっています。
しかしながら注意点として、技術士第一次試験は電験三種のように科目合格制度がありません。
基礎科目、適性科目、専門科目どれか一科目でも不合格の場合、次年度またすべての科目を受験しなくてはなりません。
技術士第一次試験合格の為には、受験する3科目全てについて一発で合格基準を満たすことが必須となります。
技術士第一次試験の科目について
技術士第一次試験の試験科目は以下の3科目について行われます。(引用元:技術士第一次試験の科目|公益社団法人 日本技術士会)
1.基礎科目
基礎科目は、科学技術全般にわたる基礎知識を問う問題が出題され、次の5分野から出題されます。
- 設計・計画に関するもの(設計理論、システム設計、品質管理等)
- 情報・論理に関するもの(アルゴリズム、情報ネットワーク等)
- 解析に関するもの(力学、電磁気学等)
- 材料・化学・バイオに関するもの(材料特性、バイオテクノロジー等)
- 環境・エネルギー・技術に関するもの(環境、エネルギー、技術史等
2.適性科目
適性科目は、技術士法第四章(技術士等の義務)の規定の遵守に関する適性を問う問題が出題されます。
3.専門科目
専門科目は、下記の20の部門の中からあらかじめ選択する1技術部門にかかる基礎知識および専門知識を問う問題が出題されます。
技術部門 | 専門科目 | 専門科目の範囲 |
---|---|---|
01.機械部門 | 機械 | 材料力学/機械力学・制御/熱工学/流体工学 |
02.船舶・海洋部門 | 船舶・海洋 | 材料・構造力学/浮体の力学/計測・制御/機械及びシステム |
03.航空・宇宙部門 | 航空・宇宙 | 機体システム/航行援助施設/宇宙環境利用 |
04.電気電子部門 | 電気電子 | 発送配変電/電気応用/電子応用/情報通信/電気設備 |
05.化学部門 | 化学 | セラミックス及び無機化学製品/有機化学製品/燃料及び潤滑油/高分子製品/化学装置及び設備 |
06.繊維部門 | 繊維 | 繊維製品の製造及び評価 |
07.金属部門 | 金属 | 鉄鋼生産システム/非鉄生産システム/金属材料/表面技術/金属加工 |
08.資源工学部門 | 資源工学 | 資源の開発及び生産/資源循環及び環境 |
09.建設部門 | 建設 | 土質及び基礎/鋼構造及びコンクリート/都市及び地方計画/河川、砂防及び海岸・海洋/港湾及び空港/電力土木/道 路/鉄 道/トンネル/施工計画、施工設備及び積算/建設環境 |
10.上下水道部門 | 上下水道 | 上水道及び工業用水道/下水道/水道環境 |
11.衛生工学部門 | 衛生工学 | 大気管理/水質管理/環境衛生工学(廃棄物管理を含む。)/建築衛生工学(空気調和施設及び建築環境施設を含む。) |
12.農業部門 | 農業 | 畜 産/農芸化学/農業土木/農業及び蚕糸/農村地域計画/農村環境/植物保護 |
13.森林部門 | 森林 | 林 業/森林土木/林 産/森林環境 |
14.水産部門 | 水産 | 漁業及び増養殖/水産加工/水産土木/水産水域環境 |
15.経営工学部門 | 経営工学 | 経営管理/数理・情報 |
16.情報工学部門 | 情報工学 | コンピュータ科学/コンピュータ工学/ソフトウェア工学/情報システム・データ工学/情報ネットワーク |
17.応用理学部門 | 応用理学 | 物理及び化学/地球物理及び地球化学/地 質 |
18.生物工学部門 | 生物工学 | 細胞遺伝子工学/生物化学工学/生物環境工学 |
19.環境部門 | 環境 | 大気、水、土壌等の環境の保全/地球環境の保全/廃棄物等の物質循環の管理/環境の状況の測定分析及び監視/自然生態系及び風景の保全/自然環境の再生・修復及び自然とのふれあい推進 |
20.原子力・放射線部門 | 原子力・放射線 | 原子力/放射線/エネルギー |
技術士第一次試験の試験方法および合格基準について
技術士第一次試験において、各科目に対する試験方法、および合格基準は以下の通りとなっています。
科目 | 試験方法 | 試験時間 | 合否基準 | 合格点 |
---|---|---|---|---|
基礎科目 | 5つの分野から各6問=計30問が出題され、各分野から3問を選択し、計15問を解答 | 1時間 | 50%以上 | 8点以上 【1問1点】 |
適性科目 | 5肢択一のマークシート方式で15問出題され全問を解答 | 1時間 | 50%以上 | 8点以上 【1問1点】 |
専門科目 | 5肢択一のマークシート方式で35問出題され、25問を選択して解答 | 2時間 | 50%以上 | 26点以上 【1問2点】 |
電験三種と比べると試験時間も短く合格基準点も低いと言えます。専門科目だけ試験時間が2時間あるのことに注意が必要です。
基礎科目、適性科目ってどんな問題がでるの?
基礎科目
基礎科目は、科学技術全般にわたる基礎知識を問う問題が出題されます。出題内容は5つの分野から各6問=計30問が出題され、各分野から3問を選択し、計15問を解答をします。いずれの分野からも5肢択一問題で出題されます。(試験時間:1時間)
計算問題はほぼパターン化されており、過去問と値を変えただけで全く同じ問題が出題されるケースも珍しくありません。
また、空欄穴埋め問題や正答、誤答を判別する問題についても比較的選択肢の絞り込みがしやすく、消去法で解答できる問題も少なくないと言ってよいでしょう。
5つの分野のそれぞれに対して合格最低点は設けられておらず、得点が0点の分野があったとしても合計8点以上あれば合格となります。(…のはずです)
自身の専門分野からまったくかけ離れており、まるっきり手も足も出ないといった場合は、最初から捨て問題として放棄し、得意な分野の方により多くの時間をかけるのも一つですが、いずれの分野においても問題自体はそれほど難しくありません。
いずれにしても、過去問を繰り返して解くことにより慣れる事が重要と言えます。
適性科目
適性科目は、技術士法第四章(技術士等の義務)の規定の遵守に関する適性を問う問題が出題されます。5肢択一のマークシート方式で15問出題され全問を解答します。(試験時間:1時間)
技術士法第四章(技術士等の義務)の条文で記載されている3つの義務
- 信用失墜行為の禁止
- 秘密保持義務
- 名称表示の場合の義務
と2つの責務
- 公益確保
- 資質向上
についての出題が頻出となっています。
その他、関連法令(PL法、個人情報保護法、不正競争防止法など)や、技術者倫理に関する出題も毎年必ず出題がされています。
近年では、新聞紙面やネット上で目にしない日が無いと言っても過言では無い、ハラスメントやSDG’sといった分野からも出題が見られます。
出題の特徴としてあげるとするならば、計算問題はほぼ出題されません。また、他の科目に比べ、問題文が比較的長文で出題されます。
出題パターンとしては、
- 選択肢にある記述について正しいものと間違っている者の組み合わせとして適切なものを選べ
- 選択肢にある記述について○○に該当するもの(該当しないもの)の数はいくつか?
- 空欄に当てはまる語句の組み合わせとして正しいものを選べ
といった形式で出題されるパターンが多く、問題文を最後まで正確に読み解く必要があります。
技術士試験の所管省庁が文部科学省であることもあり、日本語を正しく理解する読解力についても問われる試験であると言えるでしょう。
専門科目ってどんな問題が出るの?
専門科目は、20の部門の中からあらかじめ選択する1技術部門にかかる基礎知識および専門知識を問う問題が出題されます。『あらかじめ選択する1技術部門』とは、受験申込時に自分が選択する技術部門となります。
5肢択一のマークシート方式で35問出題され、25問を選択して解答します。(試験時間:2時間)
以下、[電気電子部門]について、解説をします。
出題分野
専門科目の範囲としては、
発送配変電/電気応用/電子応用/情報通信/電気設備
とされています。
具体的には電験三種でいうところの
- 理論
- 電力
- 機械
- 法規
と
- その他
の分野から毎年出題されています。
【理論】科目分野~約25問程度
技術士第一次試験の専門科目[電気電子部門]は、殆どは電験三種【理論】科目からの出題と言ってよいでしょう。
特に
- 電磁気(電荷、電界、磁界)
- 直流回路
- 交流回路
- 過渡現象
- 電気計測
- トランジスタ増幅回路
などは毎年必ず出題され、頻出問題となっています。
難易度としても電験三種【理論】と比べて同等かやや易といったレベルです。
電験三種【理論】を合格できる力があれば、まず問題ないと言って良いでしょう
【電力】科目分野~約3問程度
【電力】科目分野については例年3問程度が出題されます。
令和4年度の出題では、
- 水力発電(Ⅲ-14)
- 電気機器の絶縁診断法(Ⅲ-18)
- 送電線路における直列コンデンサの役割(Ⅲ-34)
- 中性点接地(Ⅲ-35)
から出題がされました。こちらも電験三種【電力】と比べると易しいと言えるでしょう。
【機械】科目分野~約3問程度
【機械】科目分野についても、例年3問程度が出題されます。
頻出分野としては、
- パワーエレクトロニクス
- 自動制御(伝達関数)
- 情報処理(論理回路)
などからの出題が多い傾向にあるように見えます。
令和4年度の出題では、
- 変圧器の損失(Ⅲ-16)
- 変圧器の効率計算(Ⅲ-17)
- フィードバック制御における諸量の計算(Ⅲ-19)
から出題されています。こちらも電験三種【機械】と比べると易しいと言えるでしょう。
【法規】科目分野~ほとんど出題されない
【法規】科目分野からは過去問を見ても殆ど出題されていません。平成23年度に、
- 電気設備の安全対策について(Ⅳ-34)
が出題されているぐらいで他には出題が見られません。
令和4年度の出題においても、【法規】科目分野からの出題はありませんでした。
技術士第一次試験の専門科目に対しては、【法規】科目分野に対する準備は特に不要と言って良いでしょう。
【その他】の科目分野~約5問程度
技術士第一次試験の[電気電子部門]専門科目においてもっとも悩ましいのが、上記の電験三種【理論】、【電力】、【機械】、【法規】科目分野に該当しない、【その他】の科目分野からの出題です。
毎年約5問程度が出題されていますが、出題内容がさっぱり理解できません…
- 無線通信技術???
- フーリエ変換???
- 符号理論??
- 確率理論???
といった分野から出題され、多くの受験者は解答に非常に苦慮するのではないでしょうか?
例えば、令和3年度の専門科目ではこのような問題が出題されています。
令和3年度 専門科目[電気電子部門]問Ⅲ-26より
引用元:過去問題(第一次試験)|公益社団法人 日本技術士会
一見してもう、“わけわかめ”状態です💧
しかしながら、専門科目は合計35問の問題から25問を選択して解答する試験です。しかも!選択した25問中13問正解であれば合格となります。
ここは、潔く【その他】分野からの出題はサクッと捨ててしまい、他の問題により多くの時間をかける事が望ましいと言えるでしょう。
専門科目については、捨て問題を瞬時に的確に見極める事も重要であると感じます。
技術士第一次試験合格に向けてのポイント
- 基礎科目
- 適性科目
- 専門科目(【その他】分野を除く)
いずれの科目も、基本的な内容から出題がされており、特殊な解法やテクニックを要する出題はありません。
また、試験問題は5肢択一であり、電験三種に比べ比較的正答を絞り込みやすいといった特徴があります。
月並みにはなりますが、過去問を繰り返し解くことが最も効率よい勉強法と言えます。
また、電験三種と大きく違うのは合格基準点が50%であるという事です。すなわち半分以上正解できれば合格となります。
技術士第一次試験は、あくまで技術士となるための最初の一歩に過ぎませんが、第一次試験合格により技術士補となることが出来、今後のステップアップに向けて大きな自信となる事でしょう。
まとめ
- 技術士第一次試験の科目
- 基礎科目(5分野×6問=30問中、各分野×3問=計15問を選択肢解答、試験時間:1時間)
- 適性科目(全15問を解答、試験時間:1時間)
- 専門科目(35問中25問を選択し解答、試験時間:2時間)
- 技術士第一次試験の合格基準
- 全ての科目とも50%以上で合格
- 各科目における出題傾向
- 基礎科目…ほぼ過去問のパターンを踏襲
- 適性科目…長文の問題文に対する慣れが必要
- 専門科目[電気電子部門]…電験三種の内容にて十分対応可能(電験三種の範囲外は捨てても可)
- 技術士第一次試験合格に向けてのポイント
- 過去問を繰り返し解くことによって出題傾向に慣れること!
今回はここまでとさせて頂きます。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。